勇者様は今頃は北西部を探索していらっしゃるでしょうか。もう魔物の殲滅は終わっていたりして。ウォーウルフキングの討伐もさっと終わらせていますからね。きっとあっという間に終わって帰ってこられるのでしょう。楽しみだわ〜。シルフィーネ村の民からのお願いや依頼ごとを確認しつつ、勇者様のことを思い出す。何故か彼の事ばかり考えてしまいます。もう少し仕事に集中しないと。昼過ぎからはなんでしたっけ……そうそう、集会所の床が抜け落ちそうなのを見に来てほしいと頼まれていたわ。確認をしてさっさと修理をお願いしましょう。まずはこの書類の山をなんとかしないと。集中してさささっさーとこなしていきます。私にかかればこれぐらいすぐに終わります。ただ何故か山にならないとやる気がでないのよね。だから周りからはあのことはどうなった、これはどうなったといろいろと言われてしまいます。……………………………………………………さてと、書類も片付いたことですし、集会所に行きましょうかね。村の中心部を歩いていると、市場の人たちが声をかけてくれます。「長、いい肉が手に入ったから持っていきな」お肉屋さんのブルーノさんが威勢のいい声で話しかけてきます。「ありがとうございます」ブルーノさんのところのお肉はおいしいので助かるわ。「アウラさん、うちの子見かけませんでしたか? 遊びに行ったきり帰ってこなくて……」今度はオレリーさんが、息子さんを探しているようです。「えーっと、たしか…… イリアスくん……でしたっけ?」「ちがうよ。 イリアスは、向かいのモスカんちの子だよ。 うちの子は、プラールだよ」あら、間違えて名前を憶えていましたね。「あー……そうでしたねー。 プラールくんなら、そこの広場で見かけたかなー」元気よく広場で遊んでいたのを通りがけに見たことを伝えます。「アウラさん、ありがとう。 あいつ、何を遊んでいるんだ」村の人たちはいろいろと話しかけてくれるので嬉しいですねー。たまにいろいろと忘れたり、ドジしたりしていますが、暖かく見守ってくれます。村の人たちといろいろと話しながら、集会所に到着しました。さて、集会所の床はどうなっているのでしょうねー。「長、わざわざ来ていただいて申し訳ございません」集会所を管理しているコンラッドさんが、困っ
シルフィーネ村の長のアウラさんに北西部の状況を報告した翌日。アウラさんが教えてくれた北東部の丘にある社を探しに向かった。ゾルダは相変わらず剣の外には出てこない。出てこないだけならいいけど、さっきから何かしら考え込んでいるようだ。「うーん…… どうじゃったかのぅ。 なんかこういうことが前にもあったような気がするのぅ……」それにしても大きい独り言だ。「ゾルダ、何を考えているのか知らないけど…… 頭の中に声を響かせるのはやめてくれないか」ガンガンと脳の中をこだまするような感覚で声が聞こえるのでたまったものではない。「ん? おぬしにも聞こえておったか。 そんなつもりではなかったのじゃが……」最近は剣の中にいても、ゾルダの声がはっきりと聞こえるようになってきた。レベルがあがってきたことと何か関係があるのかな。勇者としてのスキルはまだいまいちわからないが、魔王とリンクしやすくなってきたのは勇者のスキルなのかな……そんなことはないか。「さっきから何を考えているんだ」それだけ悩まれるとこちらも気になってしまう。「いや…… ウォーウルフにグリズリーだがのぅ…… どこかで一緒にいるのという話があった奴らじゃったと思うのじゃが、思い出せんのじゃ」以前に何かあったのかな……「それはゾルダが魔王をしていた頃の話か?」何の事か、ゾルダに確認をする。「そうじゃ! だしかゼドだったか、シータだったか…… 話を聞いた覚えなのじゃが……」魔王時代の話なのかもしれない。「ゼドは確か現在の魔王だったけ?」以前聞いたゼドの名前が出てきたので、ゾルダに聞き返す。「そうじゃ。 あやつはワシの直属の部下4人に次ぐ奴じゃったが…… 考えておったら、あやつの顔を思い出してきた。 ワシをこんなことにしおって。 ムカつく」ここでムカつかれても困るんだけどな。本題はウォーウルフとグリズリーの組み合わせのことなんだけどな。「ふぅっ…… 話がずれてきてるって。 今、考えていたのは魔物たちの話じゃなかったけ?」話を元に戻すために切り返す。「そうじゃった、そうじゃった」思い出したかのように声をあげるゾルダ。「そう言えば、シータっていうのは誰? 初めて聞く名前だけど」「おおぅ、シータはのぅ…… ワシの直属の部下の1人で、その中では一番弱
しかしサーペントは数が多いのぅ……あやつも頑張ってはいるが、これだけおると体力がもつかのぅ……「なぁ、ゾルダ。 これ、どれだけいるんだ?」へとへとになりながら、あやつが尋ねてくる。「ん~…… そうじゃなぁ、まだまだおるぞ。 確かにこれだけ多いのも珍しいのぅ……」異常発生というレベルではあると思うがのぅ……まぁ、なんとかなるじゃろう。「まぁ、せいぜい、頑張れ、おぬし。 はっはっはははは~」「呑気だなぁ」呆れた顔をしてあやつが天を仰ぐ。「グリズリーと大差ないから余裕じゃろ」※注 サーペントはグリズリーよりだいぶ弱いが、ゾルダから見ると大差がなく見える アグリはサーペントの方がグリズリーより少し強いと勘違いしている「頑張れるだけ頑張るけど、この量はなぁ…… ちょっと大変かも」だいぶ疲れておるようじゃが、まだまだ大丈夫じゃろう。「いい経験になるぞ。 ワシじゃったら、一瞬だがのぅ」多少の力を貸してあげてもいいのじゃが……ウォーウルフにグリズリーがおって、サーペントがここにおる。さっきから、この魔物たちの取り合わせを考えておるんじゃが、思い出せん。たしかこれらを束ねる上の魔物がおったような気がするんじゃが……「倒しても倒してもキリがないよ。 ゾルダ、手伝ってよ~」あやつが情けない声で手助けを頼んでくる。「ん? 今は考え事の最中じゃ。 邪魔をするでない」なんとか思い出しそうなところなんじゃ。邪魔するでない。「こっちもそれどころじゃないんだけどな~」ますます情けない声になってくるのぅ。あやつは。「おぬし、仕方がないのぅ。 たしかサーペントを取りまとめておる魔物がおるはずじゃ。 そいつを倒したほうがよさそうじゃのぅ」「そういうのがいるなら早くって言ってよ。 どこにいる?」別に出し惜しみをしていたわけではないぞ。いろいろと考え事で忙しかっただけじゃ。「まぁ、まてまて、慌てるでない」考え事をしておったから、魔力探知はしておらんかった。集中して周辺の様子を伺ってみる。「あっちの方向じゃ。 サーペントとは比べ物にならん魔力を感じるぞ」「ありがとう、ゾルダ。 あっちだね」あやつは指を差し向け確認をしてくる。「でも、あっちもサーペント多いなぁ……」ここまで倒してきているんじゃから、そんな
相変わらずゾルダの破壊力は凄まじい。ヒュドラ相手でもあっという間だった。こういうのをチートって言うのだろう。アニメやマンガの世界なら、俺がこういう能力を持っているはずなのだが……「ほれ、おぬし。 ボーっとしておらずに、とどめを刺すんじゃ」「相変わらず規格外の力だな」「おいしいところだけ残しておいてやったのじゃからありがたく思え」確かにおいしいし、ありがたいけど……これって俺いるか?って感じにもなる。氷漬けになったヒュドラに一閃すると、ガタガタと音をたてて崩れ落ちる。まぁ、これで一緒に戦ったことになって、俺の経験にもなる訳だが……異世界転移して俺TUEEEってなってないな。でも、何の因果かわからない。だけど、チートなゾルダが封印されている剣をもらえたのはラッキーだったかも。「さぁ、これでここは終わりじゃな。 さっさと帰るとするかのぅ」ゾルダは仕事は終わったとばかりに帰ろうとする。「いやいや。 まだ社を確認出来てないって」大事な仕事が残っているのだが、どうにもゾルダはそんなことはどうでもいいようだ。「確かにそのような話を小娘がしとったなぁ」「小娘ってアウラさんのこと?」「そうじゃ、ワシからしたら小娘じゃ。 では……あとはおぬしに任せた」「おい、ゾルダ!」ゾルダは戦いが終わるとさっさと剣へと帰ってしまう。まだ目的の1つしか終わってないんだけどな。祠を探すために歩き始めた。しかし、ゴツゴツした岩が視界をさえぎり思うように探せない。この前の森では大きな木の中に祠があった。ここもそういう類だろうか。少し上りやすそうな岩を見つけて上って辺りを見回してみる。「どの辺りかな」とにかくこの辺りで一番大きな岩を探してそこに行ってみよう。「あっ、あそこが一番大きそうだ」岩が多い丘の中でもかなり目立った大きさの岩を見つけることが出来た。さっと飛び降り、急いで大きい岩へと向かう。ところどころにまだサーペントが残っているが、一撃で倒せるのでそれほど苦にならない。大きい岩の近くに着くと丹念に周りを確認した。すると人が一人入れるくらいの穴を発見した。「よっしゃ、ビンゴ」予想が当たって嬉しい。すると、ゾルダが話しかけてくる。「何を小躍りしておるのじゃ」「いや、祠の入口らしきものを見つけたから、つい嬉しくなって」
勇者様は北東部の丘でしたっけ……あそこは岩だらけで、あちこちにキノコみたいに生えているので、迷いますよね。勇者様も迷子になっていなければいいのですが…迷子になったら、なったで私が助けに行けば……うふふふふふ……って、こんなことを考えている場合ではなかったですね。風の水晶を作らないといけませんでした。たしか、あそこの本棚にあったと思いますが……目的の本棚へと足を運んでいく。上から順に指をさしながら、確認をしていった。あっ、あったあった。確かこの本だったと思います。本を開いて1ページ1ページさっと見ていきます。ここじゃない、ここじゃない、どこでしたっけ……数十ページ進んだところで、手が止まる。ここでしたか。どれどれ……風知草(かぜしりそう)の根と玻璃(はり)が必要っと……それで結晶を作り、風の呪文である『ゲイル』を閉じ込めて作るっと。玻璃はたしか家にあったような気がします。風知草は無かったかな~。「カルム! カルムはいますか?」カルムは私がいろいろとお仕事をお願いしているこの村一番の強者です。勇者様ほどではないですが、何か起きた時には頼りになる者です。遠くに行くときには身辺の護衛もお願いしています。「はっ。 私奴はここにおります」いつもでも私が呼ぶとすぐにカルムは来てくれます。本当に助かります。「いつも早いわね。 風の水晶を作るために、風知草の根が必要なの。 取ってきて欲しいなと思って」カルムに今回の用件をお願いします。いつも頼ってばかりで申し訳ないけど……「はっ。 早速、取りにいってまいります」相変わらず行動が早いですね~。あっと言う間に目の前からいなくなりました。カルムだから何も心配せず任せられるわ。すぐにでも戻ってくるでしょう。私は風の水晶を作るための準備をしましょう。部屋に戻って、調合のための準備を進めます。これと、これと、これと……道具などもすべて準備できましたわ。あとはカルムが戻ってくるのを待つばかりです。しばらくするとドアをノックする音が聞こえてきました。「コンコンコン」「はーい」入口に向かって歩いていきます。「カルム、やっぱり仕事は早いわね」扉を開けながら話しかけます。ただ開けてビックリ。勇者様がそこにいらっしゃるではないですか。「アウラさん……
北東部の丘の祠で助けたフォルトナと共にシルフィーネ村に戻った。フォルトナがアウラさんのところへ行くと言うので、状況の報告も兼ねて向かった。そこで聞かされた事実にビックリ。アウラさんとフォルトナが母娘だったって……「なぁ、ゾルダ。 フォルトナがアウラさんの娘だったってビックリしたな」思わずゾルダに同意を求めてしまった。「そうじゃのぅ。 同じシルフ族だとは思っていたが、親子だったとはのぅ」親子だと言われれば確かに容姿は似ている。でも、性格は全然違うので、微塵も思わなかった。あのやさしそうでおっとりしたアウラさんから、この元気な娘さんが……仰天の事実にしばらく呆気に取られていた。するとアウラさんが不安そうな顔で話しかけてきた。「あのー、お話を進めていいでしょうか……」申し訳なさそうに俺のことを見ている。「あっ……はい。 話を進めてもらって大丈夫です」俺の言葉を聞いて安心したのか、アウラさんはにこやかな顔つきになる。「風の水晶の材料が揃いましたので、早速制作にとりかかろうかと思います~。 勇者様も見ていかれますか?」手伝えることもなさそうではあるけどどうしようかな。考えていると、不機嫌そうにゾルダが顔を覗き込んできた。「ワシはもう疲れたし、早く宿に帰ろうぞ」早く終われと言わんばかりだ。「ゾルダは早く酒が飲みたいだけだろ」ここのところ毎晩のように酒を飲んでいる。今まで封印されて飲めなかった分だと言って。「そっ……そんなことはないぞ。 ちょっとだけは思っていたがのぅ」ちょっとだけと言葉では言っているけど、それが本心だろう。「ちょっとだけじゃないだろ。 気持ちはわかるけど、せっかくだから少しだけ見ていこうよ」「仕方ないのぅ……」ゾルダはシュンとした顔をして、渋々承知したようだった。「アウラさん、少しだけ見させていただきます」そう伝えるとアウラさんは嬉しそうに答えてくれた。「わかりましたー。 じゃあ、こちらへ来てください。 あと、フォルトナも手伝って」「えー、ボクもー?」不満げな顔をするフォルトナに対して、アウラさんの厳しい視線が飛ぶ。「もー、わかったよ。 まったく人使いが荒いんだから」フォルトナも膨れた顔をしながらついてきた。家の中に入り、連れてこられた部屋は薄暗く理科の実験室のような機材
「いててて……」頭がガンガンするぞ。風の水晶を作った翌日に北の洞窟へ向かっているのじゃが……どうにもこうにも頭が痛くてたまらん。「そりゃ、あれだけ酒を飲むんだから、 翌日に二日酔いにもなるよ」分かり切ったという顔であやつが話しかけてきた。「いいや、これぐらいの量、前はなんともなかったぞ」封印前はもっと飲めていたはずなんじゃが……「それだけ年をとったってこと……」なんと失礼な物言いじゃ。ワシを何だと思っている。「おぬし、その言い方はなんじゃー! ワシは年などとっておらぬぞ」あやつの胸ぐらをつかみ、にらみを利かせてみる。「ごめんごめん。 長いこと封印されていた影響でもあるんじゃない?」そうじゃ、そうじゃとも。ワシがこんなんになるのは、それ以外考えられぬわ。「フーインってなんのこと?」不思議そうな顔で小娘の娘がこちらを見ておる。そういえば小娘の娘が一緒におったんだったわ。「なっ……何でもないよ、フォルトナ。 それより北の洞窟はあとどのくらいかかる?」あやつ、うまくごまかして話をそらしおった。これぐらい剣も上手くなってくるといいのじゃがのぅ。「うーん。 まだまだ先かなー。 それに、まださっき村を出たばかりじゃん。 そう早くは着かないよ」「それはそうだね…… は……はははは……」話は上手くそらせたけど、詰めが甘いのぅ。振った話がそれじゃ、話も続かんじゃろ。「おい、小娘の娘! この騒ぎが起きてから、北の洞窟には行ったのか?」これから向かう北の洞窟での様子を聞いてみた。「だから、小娘の娘って言い方は止めてよー。 ボクはフォルトナという名前があるんだから」言い方が気に食わない様子じゃ。小娘の娘が口を尖らせておる。「小娘の子供だから、小娘の娘と言って何が悪いんじゃ」ワシは間違ったことはいっておらんぞ。「間違いじゃないけどさー。 人を呼ぶときは名前があるんだから、名前を呼ぼうよ。 ね~、お・つ・き・の・ひ・と」小娘の娘はわざとらしい笑顔をこちらに向けてきた。腹立たしい。「お前だってワシの名前を呼んでいないぞ」「だってわざとだもーん。 こっちも名前で呼ばれるまでは意地でも呼んであげない」雰囲気が悪くなってきたのを感じてか、あやつが割り込んでくる。「まぁ、まぁ。 お互い意地にならずに
「さぁ、そろそろ先を急ごうか」ゾルダの二日酔い(本人は否定しているけど)がひどいのもあって、休憩をしていた。少し休憩したこともあって、ゾルダもだいぶ回復してきたみたいだけど……「ふぅわ~~」「よう、寝たわ」「起きたようだね、ゾルダ」「少し寝たら、頭が痛いのも落ち着いてきたぞ」「これなら、洞窟に着くころには、全開になっているから安心しろ」「よかった」「期待しているよ」寝ていたゾルダが起きてきたようだ。「あーあ、こんなところで休憩しなければもっと早く着いたのに」フォルトナ、そんな刺激することを言わなくても……「小娘の娘!」「お前、ワシに文句があるのか?」「文句はないよ」「事実を言ったまでだよー」事実でも刺激はするだろう。「まぁまぁ」「ゾルダもフォルトナも今はそんなこと言い合わなくても」「休憩して遅れたのも確かだけど、ゾルダが回復すればさらに早く進むことが出来るから」「たぶん、これでいってこいだ」「そういうものかなー」「さすがわかっておるな、おぬし」急がば回れだし、この休憩が吉と出ると言い聞かせよう。これでしっかりと休んだし、先に進んでいけるだろう。それからゾルダの調子も良くなったこともあり、順調に進めることが出来た。ただ北の洞窟に向かう道はそれなりに険しく、時間のかかるものだった。それでも、確実に洞窟へ向けて進んでいけた。しばらく進んでいくとさらに険しい山道へと差し掛かった。この山の中腹に北の洞窟があるらしい。「あともう少しかなー」「いつもこんな道を登っていったのか、フォルトナ」「そうだねー」「でもいつもは風魔法で移動しているから、そこまでではないよ」「えっ、そうなの?」「俺、まだ移動魔法は覚えてないからな」レベルもそれなりに上がったけど、なんか移動が楽になりそうなものは一向に覚えない。ゾルダ曰く、それぞれの特性があるらしく、俺にはそういう系統の魔法は高いレベルに設定されているのではないかとのこと。でも、やっぱり楽はしたいなとは思う。「俺も早く移動魔法を覚えたいよ」「この山道を登っていくのはきついよ」「ボクも付き合っているんだから、そう言わないで」「そうじゃ、そうじゃ」「ワシも付き合っているんだからのぅ」いや、ゾルダは浮いているだろう。楽しやがって。「おつきの人は飛んでいるじ
フォルトナが去ってからしばらくすると、街の中のいたるところから煙が立ち上った。それと同時に爆発音も響き渡る。「フォルトナ…… ちょっとやりすぎじゃないのか」想定よりも多くのところで事が起きているように感じた。「たぶんじゃが、フォルトナだけではないな」ゾルダがその様子を見て言った。「えっ、フォルトナだけじゃない? どういうこと?」一人で向かったし、他の協力者なんてこの街にはいないはず。「だぶん、小娘の配下たちじゃろう。 この手際よさ、速さ、小娘の娘だけではこれほど出来んじゃろ」そういうことか……それならなんとなく納得が行く。でも、いつ来たんだろう。まぁ、なんとなくフォルトナが心配だから、俺たちの後を数名追いかけていたのだろうけど……「そんなことより、どんどん鉱山からは憲兵がいなくなってきてますわ」マリーが指差す方を見ると、街の騒ぎを聞きつけてか、憲兵たちがその対応に出て行っている。もともとどれくらいいたかがわからないから、何とも言えないが、それなりの数が出て行った。その後も、あちこちで煙や爆発音がするので、憲兵たちはどんどんと街に向かっていた。「これなら、だいぶ手薄になったかな」憲兵たちの出入りが落ち着いたところで、俺たちは鉱山へと入っていった。だいぶ街中への対応に出て行ったためか、少人数の憲兵はいるものの、中には入りやすくなっていた。「ここまでは作戦成功ですわね」マリーが感心したような口ぶりで話しかけてきた。「そうだね。 ただ、この後は中がわからない以上、出たとこ勝負かな」そう、中の様子が全く分からない。どれだけの強敵がいるかもわからないし、まだもしかしたら奥には憲兵が残っているかもしれない。慎重に行動して、なるべく戦わずにいけるといいんだけど……「数も少ないし、人ばかりじゃから、おぬしだけでしばらくはなんとかなるかのぅ」ゾルダは相変わらず余裕な態度で後からついてくる。いざという時に頼らざるを得ないから、今はあまり力を使わせないようにしないと。「この調子なら、なんとかなると思うよ。 ゾルダは最悪の事態に備えて」「真打は最後……じゃからのぅ」高笑いをするゾルダ。まぁ、それはそうなんだけど……ゾルダの出番が少ない方が危ない状況じゃないってところなので、そちらほうが助かる。「マリーは手伝ってあ
宿屋の女の人からいろいろ聞いた翌日--情報の確認の意味もあって、みんなで領主の家へ向かったんだよねー。近くまで行ってはみたものの、憲兵たちが厳重に警戒していて、アリの子一匹入る隙すらなかった。「こりゃ、中に入ってとか言える感じじゃないな」困った顔をしながら、アグリがぼやいていた。「そうだねー。 ちょっとこれだとボクにも無理かな」外がこれだけ厳しいと、中もかなり厳重に守っているだろうなー。「だから、ワシが蹴散らしてあげようぞ」ゾルダは血気盛んに息巻いているねー。その方がゾルダらしいけど。「ちょっと待ってくれ。 ここではまだゾルダの出番は早いから。 もう少しだけ待ってくれ」アグリは慌てて止めに入る。なんかいつものやり取りだねー。「外からは様子は伺えないし、何があるかもわからないから。 いったん、ここは様子見で、鉱山を見に行こう」アグリは領主の家の調査は諦めたようだ。でも、これだけ警備が厳重なら、仕方ないねー。その判断が正解だよ。それから領主の家から離れたボクたちは北東の鉱山の入口へと向かった。山の麓にある入口もこれまた警備がすごかった。人の出入りはあまりなかったので、ずっと男の人たちは中で働いているのかもしれないねー。「こっちも凄いな…… これだけ憲兵を鉱山や家に回していたら、街の入口に人は割けないな」どうやら街の出入りを見張るより、こちらの方が大事なのかもしれないねー。「街の入口に誰もいなかったのは、アルゲオのこともあると思いますわ」マリーがキリっとした表情でみんなが思ってもいなかったことを口にした。そしてそのまま話を続けた。「アルゲオがここの領主の差金の可能性が高いですわ。 アルゲオが出ることで、他の街との行き来が出来なくなり、 結果として、入口の警備もいらなくなりますわ」確かにそうかもしれないねー。マリーってそんな分析できる印象ないんだけどなー。意外に考えてるなー。「たっ……確かにそうかもしれんのぅ。 マリーは頭がいいのぅ。 ワシも考えつかなかったことを……」ゾルダはマリーの頭をナデナデしていた。マリーは満面の笑顔をしている。「当然ですわ。 これぐらいマリーにかかれば、簡単ですわ」胸を張って得意げな顔をしているマリー。そんなに調子に乗らなくてもとは思う。「それはわかったけど
鬱屈とした雰囲気が街を覆っておるのぅ。なんじゃろうな、この居心地の良さは……たぶんワシらの仲間に近しいやつらが何かしていそうな気がするのぅ。街についたとたんに感じる雰囲気が人の街ではないように感じた。明らかに人ではない何かが支配しているのぅ。もしくは関係しているか……あやつは馬鹿正直に調査調査と言うが、この感じだけでもわかるじゃろうに……ホントに感が悪いのぅ。「なぁ、おぬし。 この雰囲気、感覚からして調査せずともわかるじゃろ。 人が作り出したものと違うぞ」街中の様子を探っているあやつに、ワシが感じたことを伝える。「そうなのか? マリーが聞いた人は税が高いっていっていたから、悪徳領主が何かしらしているんじゃないの?」あやつからは能天気な答えしか返ってこなかった。「それもそれであるじゃろうがのぅ…… それだけではこんなことにはならないとは思うのじゃ」「ゾルダの言うこともわかったから。 とりあえずはまだ街の中の様子を伺っていこうよ」あやつはすごく慎重にことを進めることが多い。そんなに慎重に進めても事は進んでいかなと思うのじゃがのぅ。「……勝手にせい」半ば投げやりにあやつの進め方を容認する。あやつに付いて街の至る所に行ってみたが、どこも人はまばらじゃった。男の人の数は少なくそれも爺さんばかり。逆に女や子供が多かった。店や宿屋も女が切り盛りしている様子じゃった。「なんかすごく男の人が少ないな」「そうだねー。 それに活気もなくて、報告と全然違うねー」小娘の娘も話の違いに戸惑っている様子じゃ。確かに、聞いていた話とは大きく違うのぅ。もっと栄えて活気があってというのが、街に出入りしている一部の人の話じゃったと……でももしかしたら、それが全部偽りということもあり得るのぅ。この感じからすると。「こうなると、聞いていた話が嘘じゃったということではないのかのぅ。 一部しか出入りしておらんということは、そやつらも結託しておるということじゃ」「そうなのかな。 アルゲオが出ていたことも関係しているかもしれないよ。 男の人は討伐に向かったとか」またあやつは呑気な考えをしておるのぅ。「ゾルダの言うことも考えとしてはあるんじゃないかなー 中を見ている人が少ないってことは。 結託しているかどうかはわからないけど、口止
ムルデの街が近づいてきた。城塞国家の様相で、一面が高い壁で覆われている。そのためか、中の様子は外からは伺えない。城門も大きな構えをしていて、そこでは関所さながらの入念なチェックが行われていると聞いた。高い城壁には憲兵が配置され、たとえ城壁を登ってもアリの子一匹入らせない厳重な警戒をしているとの話だった。そこまで出入りを徹底していると聞いたため、何か粗相をして入れなかったらどうしようと思うと緊張する。「何をそんなに緊張しておる 入れなくても、そいつらを倒せばいいことじゃ」ゾルダは相変わらず脳筋な考えをしている。たまにはしっかりと考えているときもあるけど、大体強さは正義的な考えだ。「マリーもねえさまの言う通りだと思うわ。 マリーたちを止められるものはないですもの」マリーもゾルダに影響されてか強硬派だ。まぁ、魔族自体がそういうものなのかもしれない。人の常識を当てはめてもとは思うが、でも今は人として行動しているのでなぁ。あまり強引に進んで事を荒立てたくはない。「ゾルダもマリーも頼むから自重してくれ。 なんとか通してもらうようにするからさ」しばらく歩くと、城門の前に辿りついた。門は固く閉じられている。ただそこには憲兵らしき姿は見当たらなかった。「あれー、ここに入門をチェックする人たちがいるはずなのになぁー」フォルトナも辺りを見回すが、本当に誰もいないようだ。「本当に誰もいないようだな。 勝手に入っていいんだろうか……」大きな城門の脇にある出入り用の扉を開くかどうか確認してみる。「ギィー……」鍵などはかかっておらず開いているようだ。「入れるようだねー」フォルトナは周りをさらに確認しているが、人の気配はなかったようだ。普段なら城壁の上にいる憲兵たちも見当たらないようだ。「誰もいないのであれば、入っていいのじゃろぅ さっさといくぞ」ゾルダは出入り用の扉を開けてズカズカと中に入っていく。「ちょっと待てって 普段と違うってことは何かあったってことだろ」そう言って、ゾルダを止めようとするが、お構いなしだ。どんどんと先に行ってしまう。マリーもそれについてさっさとついていく。俺とフォルトナは慎重に周りを確認しながら、恐る恐る扉の中へ入っていった。分厚い城壁の中を潜り抜け、街の中へ出ると……そこはよどんだ空気が
目の前に大きな氷のドラゴンが出てきたと思ったらさー。マリーがしゃしゃり出て、倒そうとしたけど、倒せなくてー。アグリが助けに入って、苦戦しているな―と思ったら……なんか剣とか兜が光りだしてー。光ったなーと思ったら、ドラゴンが真っ二つに割れていたんだけどー。というのがここ最近の流れなんだけど……「ボクの出番がほぼないってどういうこと?」確かに戦いには参加してなかったけどさ。「出番ってどういうことかな。 そういうメタい話は、欄外でやってよ」アグリがなんか言ってきたけど……「何、その『メタい』って言葉! 何言っているかわからないし」分からない言葉を聞いてさらにいらつく。もっとわかりやすく話してくれないかなー。「ごめんごめん。 出番というか、あのドラゴン相手だとフォルトナが戦うのは難しいし、 後ろで控えていたので正解なんじゃないかな」そう言われるとそうだけどさ。ボクに何も出来ることはあの場ではなかったのは確かだけどねー。「ムルデの街までの案内はよろしく頼むよ。 その辺りの情報は持っているんだろ?」アグリはボクを道案内としか思っていないのかな。確かにムルデまでの道のりの情報は母さんに聞いているからわかっているけどさー。「ボクは道案内だけじゃなくて、もっと他にも頑張れるんだから。 そっちも頼ってほしいなー」ちょっと気持ちが収まらないのでグチグチと文句を言う。アグリは苦笑いしながら「頼るところはきちんと頼るから。 機嫌直してくれ」とボクのご機嫌を取りに来た。まぁ、そこまで言うなら、仕方ないなー。「わかったよ。 ちゃんとボクにも役割ちょーだいね」そうアグリに言うと、先頭にたちムルデの街の方へ向かっていく。アグリは慌てた様子で、ボクの隣に並んできた。ゾルダとマリーは、後ろについてくるようだ。マリーは相変わらずゾルダにベッタリしているなー。「そう言えば、ムルデの街というのはどんなところなの?」アグリがこの後向かうムルデの話をしてきた。「ボクが聞いている話だと、なんかとても栄えていて、 人も温厚で、活気があるって聞いてるよ」「へぇ、そうなんだ」アグリはうなずきながらボクの話を聞いてくれた。「ただ、一部の商人や役人以外は、ムルデの街への出入りは出来ない状態なんだ。 街の人たちも、居心地がいいのか、誰一
「危ない!」思わず声を出し、体が反応してしまった。気づけばマリーの前に立ち、氷壁の飛竜の攻撃を受け止めていた。マリーはあっけにとられた顔をしている。「うりゃーーーー」さすがにアルゲオの攻撃は重たい。なんとか受け止めて弾き返したが、まだ手がジンジンとする。さて、この後どうするかな……マリーの力はたぶんもっと凄いのだろう。俺よりか遥かに。ただ前にゾルダもそうだったけど、何かしらが原因で力を出し切れない状態なのだろう。力を取り戻せるようになるまでは、俺もサポートしないと。ゾルダに一喝されたマリーはゾルダの下へと走っていった。涙がこぼれていたようだけど、力が出せないことがよっぽど堪えたのだろう。考えなしにアルゲオの前に立ったけど、どうしたものかな。さっきの感じだと、攻撃はなんとか受け止められそうだけど……俺の力でアルゲオは倒せるだろうか……手伝わせてよと見得を切った手前、やり切らないとな。思わず苦笑いになる。「おぬし、そいつを倒せるのか? ワシはいつでも準備万端じゃぞ」ゾルダはニヤリと笑いながら俺に言った。「やるだけやってみるさ」そう言うと俺は剣を構えて、アルゲオに向かっていった。「グォッーーーーーー」再び吠えるアルゲオ。そして翼を振り切ってきた。「ガーン」重い一手が剣を捉える。「ぐはっ」さっきも受けたけどかなり重いな。アルゲオの重みが一気に乗っかってくる。さらにアルゲオが攻撃をしかけてくる。翼をやみくもに振り回してくるが、すべて剣で受け止める。手数が多くてなかなかこちらからは攻撃が仕掛けられない。「大丈夫か、おぬし 受けてるだけでは倒せんぞ」マリーを抱きしめながら、俺に対しては煽りをいれるゾルダ。そんなことは俺でもわかっている。でも受けるので手いっぱいで、反撃が出来ない。「言われなくてもわかっているよ」前の俺なら、この攻撃も受け止められなかったのかもしれないが、なんとか受け止められている。そういう意味では成長出来ていると実感が出来る。でもここでは、もう一歩先、反撃できる力が欲しい。直接のダメージはないもののジリジリと追い詰められていく。やっぱり俺ではダメなのか。もっともっと強くならないと……力が、力が欲しい……そう強く願う。その時だった。剣と身に着けている兜が光だし共鳴を
「なんだ! あの大きいドラゴンは?」あいつが大きな声を出す。そんなに大きな声を出さなくても見ればわかるわ。「あいつは確か、アルゲオという氷属性のドラゴンじゃったかな。 氷壁の飛竜とも言われとるはずじゃ」ねえさま、さすがいろいろ知ってらっしゃる。「ボクも名前だけは聞いたことあるけど、実際に見るのは初めてだねー」フォルトナはずいぶん呑気に構えていますわね。「グォーーーーーー」氷壁の飛竜アルゲオが一吠えすると、猛吹雪がマリーたちに向かってくる。風雪に耐えながら、みんなが戦闘態勢を整え始める。特にねえさまからは闘志がみなぎって見えるわ。「さてと…… ワシの出番じゃのぅ」ねえさまが一歩前へ出るところにマリーが割って入ります。「ねえさま、ここはマリーに任せてほしいの」やる気まんまんのねえさまだけど、マリーもいいところ見せたいし。今回はねえさまには悪いけど、マリーに戦わせてほしいわ。「ん? なんじゃ、マリー。 お前がやるというのか……」ちょっと怪訝そうな口調でねえさまがマリーを見てきた。「ねぇ、お願い、ねえさま。 せっかく助けてもらったのだから、少しは役に立ちたいわ」ねえさまが戦いたいのはわかるけど、任せてばかりでは立つ瀬がないわ。ここは是非にでもやらせてほしいという思いもあり、今回は一歩も引かないつもり。「うーん。 仕方ないのぅ。 マリーに任せよう」マリーの覚悟を受け取ってもらえたみたいで良かったわ。ねえさまにいいところを見せないとね。「ねえさま、ありがとう」ねえさまの胸に飛び込んでお礼を言うと、氷壁の飛竜の前へと向かった。「なぁ、ゾルダ、マリーに任せて大丈夫なのか?」あいつが、何か心配をしているようだけど、これぐらいの敵、マリーは大丈夫。「まぁ、本来の力を出せれば、問題なかろう」ねえさまはさすがわかってらっしゃるわ。安心してマリーに任せてね。「さぁ、氷だらけのドラゴンさん。 マリーが相手しますわ。 かかってらっしゃい」氷壁の飛竜がマリーの方を向くと、また一吠えする。「ガォーーーーーー」そんな遠吠えを何度しても無駄ですわ。荒れ狂う竜巻のような風雪がマリーの方に来たけど、一向に気にしないわ。「それだけしか能がないの? このドラゴンさんは。 それ以外してこないなら、こちらから行くわよ」た
しかし、人というのは面倒じゃのぅ。いろいろ頼んだり頼まれたり。己の事だけやっておればそれでいいのではないか。あやつがいろいろと頼まれておるのを見ていると、そう感じたりするのじゃが……「のぅ、おぬし。 大変じゃのぅ。 いろいろと厄介ごとを引き受けて。 ワシじゃったらそんなこと聞かんがのぅ」次の目的地に向かう道すがら、あやつに問う。「そもそもそれが俺がここに呼び出された理由でもあるし…… 確かに何でもかんでもとは思うことはあるけど、 困っている人は放っておけないよ」あやつもあやつなりに考えるところはあるようじゃな。それでも引き受けておるところをみると、人がいいのじゃろぅ。それか、よっぽどのバカじゃ。「まぁ、ワシはゼドをぶっ潰せればいいし、 強い奴らとも相まみえることが出来ればいいんじゃがのぅ」長い間外に出れなかったのもあって、ゆっくりと外の世界を満喫したいとは思う。そうは思うのじゃが……「とはいえ、早くゼドをぶっ潰したいので、先を急がんかのぅ」とあやつを急かしてみる。しかし、あやつは、「急いで行ったら、俺が死ぬよ。 確かにゾルダは強いけど、俺はそんなに急に強くはなれないし、死んだら困るのはゾルダだろ」と正論を言ってくる。おぬしが弱いのはわかりきっておる。だから鍛えてきたのじゃが……確かにゼドたちと戦うには、まだ足りんやもしれぬ。ただ出会った頃に比べたら格段には成長しておるがのぅ。「わかった、わかった。 おぬしに死なれては、また剣の中じゃ。 おぬしのペースでいいのじゃが、ワシら気持ちもわかってくれ」急いても仕方ないので、しばらくはおぬしに付き合っていくしかあるまい。ゼドのところに行くまではのんびり構えておくかのぅ。そんな話をしながら、ワシらは砂漠を超えて、問題の山のふもとに到着した。「なんだか急に寒くなってきましたわ。 ねえさま、寒いですわ」マリーの奴はそう言うとワシにぴったりとくっついてくる。「今まで暑かったのになー 急に天気が変わり過ぎだよー」小娘の娘も寒さに震えだしてきたようだ。山頂の方を眺めると、雲で覆われて何も見えないのぅ。少し上の方を見ると一面が白く覆われておる。「いつもはこんな天気じゃないのかな。 これが異常気象ってやつなのかな」あやつも山を眺めながらそう言っておった
昨晩はなんかすごく疲れていた。宿についてベッドの上で横になってからの記憶がない。ゾルダやマリーが俺の部屋でなんか話しているような気がしたが……朝になりベッドから起き上がると、部屋は静けさが漂っていた。ゾルダたち3人は自分たちの部屋に戻ったのだろうか。寝ぼけまなこをこすりながら、昨日デシエルトさんが言っていたことを思い出す。『明日落ち着いたらでいいんだ。 昼でも食べながら、今の状況について話をさせてほしい。 国王様からも話が来ているのでな』確か、そんなことを話していたと思う。さて……今はどのくらいの時間帯だろう。閉まっている窓を開けると、まぶしい日差しが入り込む。人々は街を行き来し、活気にあふれていた。まだ建物の修復が終わっていないところが多いためか、その作業に追われている人たちもいた。空を見上げると……日は高く昇っている。…………「あーっっっっっっっっっっっ」デシエルトさんとの約束の時間が……全身から血の気の引くのを感じた。一気に目が覚める。バタバタしながら出かける準備をする。落ち着けと落ち着けと自分に言い聞かせながら。準備が終わると、俺は部屋を出てゾルダたちを呼びに行った。先日はここでノックをしてすぐ扉を開けて大変だった。いわゆるアニメや漫画のお約束シーンのような出来事だった。さすがに今日は大丈夫だろうとは思うが、ここは慎重に。慌てずノックだけして、話をしよう。「コンコン」「俺だ。アグリだ」すると中からゾルダの声がした。「遅かったのぅ、おぬし。 今日は全員服を着ておるから安心しろ。 入ってきても大丈夫じゃぞ」ある意味普通のことだが、安心して扉を開ける。中を見渡すと、相変わらずゾルダの横にベッタリしているマリーと大きく伸びをしているフォルトナもいた。「遅くなってわるい。 昨日デシエルトさんに昼に屋敷にこいと言われていたのを忘れていた たぶんそのまま次に向かうと思うから準備して行こう」そうゾルダたちに伝えると、皆が準備するのを宿の外で待つことにした。準備はすぐに整い、全員でデシエルトさんの屋敷へと向かった。時間も時間だったので、急いで向かうことにした。ゾルダは特に気にすることもなく「もう少しゆっくりでもいいじゃろぅ そう慌てるもんでもないのにのぅ そんなのは待たせておけばよ